2026/02/05
学校の教室に、壁掛け扇風機が取り付けられている光景を見たことがあるだろう。
黒板の上や窓際の壁に、2台から4台ほど。首を振りながら、教室に風を送っている。床を使わないから邪魔にならない。掃除のときも机を動かすだけでいい。合理的な選択に見える。
だが、ここでひとつ疑問がある。
あの壁掛け扇風機で、教室は本当に涼しくなっているのだろうか?
壁掛け扇風機のサイズを考える
壁掛け扇風機の羽根径は、一般的に30〜40cm程度だ。これは家庭用のリビング扇風機とほぼ同じサイズである。
家庭のリビングを思い浮かべてほしい。広さは10〜20㎡くらいだろう。そこに家族が数人。リビング扇風機1台で、十分に涼しさを感じられる。
では、教室はどうか。
一般的な教室の広さは60〜70㎡。リビングの3〜4倍だ。そして、そこにいるのは数人ではない。30人以上の生徒と1人の教師がいる。
家庭用サイズの扇風機で、この空間をカバーできるだろうか。
30人の生徒は「熱源」である
見落とされがちだが、人間は熱を発生させる。
安静時でも、一人あたり約80Wの熱を出している。これは白熱電球1個分に相当する。30人の生徒がいれば、2,400W——電気ストーブ2台分以上の熱源が教室に存在することになる。
しかも、生徒たちは終始、安静にしているわけではない。ノートを取り、手を挙げ、隣の席と話し、体育の後は汗だくで戻ってくる。実際の発熱量は、安静時の数字を上回る。
教室とは、狭い空間に大量の熱源が密集している場所なのだ。
壁掛け扇風機の限界
壁掛け扇風機は、壁の高い位置から風を送る。首振り機能で左右に風を振り分ける。一見、教室全体に風が届きそうに思える。
だが、現実はそう単純ではない。
風量の問題
壁掛け扇風機の風量は、家庭用リビング扇風機と大差ない。30〜40cmの羽根が動かせる空気の量には限界がある。60〜70㎡の教室全体の空気を攪拌するには、明らかに力不足だ。
壁掛け扇風機を4台設置しても、それぞれがカバーできる範囲は限られている。風が届く席と届かない席の差が生まれる。窓際の生徒は涼しいが、教室の中央にいる生徒はほとんど風を感じない——そんな状況が起きる。
高さの問題
壁掛け扇風機は、壁の高い位置に取り付けられている。風は上から下に向かって吹き降ろす。だが、生徒が座っているのは床から数十センチの高さだ。
高い位置から出た風は、途中で拡散し、勢いを失う。生徒の顔や体に届くころには、微風になっていることも多い。「扇風機が回っているのに、涼しくない」という感覚の正体はこれだ。
熱負荷に対する能力不足
先述のとおり、30人の生徒は2,400W以上の熱を発生させている。この熱を、家庭用サイズの扇風機数台で処理するのは、そもそも無理がある。
壁掛け扇風機は「ないよりマシ」程度の効果はあるかもしれない。だが、教室を快適な空間にするには、能力が足りていない。
大型扇風機との比較
では、大型扇風機を使った場合はどうか。
工場や倉庫で使われる大型扇風機(工場扇)は、羽根径が45〜60cm以上。風量は壁掛け扇風機の数倍から10倍に達する。広い空間の空気を大量に動かすことを前提に設計されている。
風量の差
大型扇風機1台が動かす空気の量は、壁掛け扇風機数台分に相当する。教室の隅に大型扇風機を1台置くだけで、教室全体に気流が生まれる。
壁掛け扇風機では「風が届く席と届かない席」が生まれたが、大型扇風機であれば、教室全体の空気が動く。直接風を浴びなくても、空気が循環しているだけで体感温度は下がる。
床に近い位置から送風できる
大型扇風機は床に置いて使う。生徒が座っている高さに近い位置から、水平方向に風を送ることができる。壁掛け扇風機のように、高い位置から吹き降ろして途中で拡散する、ということが起きにくい。
また、角度を調整すれば、斜め上に向けて空気を循環させることもできる。教室の空気全体を動かす使い方が可能だ。
比較すると
壁掛け扇風機と大型扇風機の違いを整理すると、以下のようになる。
- 羽根径:壁掛け扇風機は30〜40cm、大型扇風機は45〜60cm以上
- 風量:大型扇風機は壁掛け扇風機の数倍〜10倍
- 対応する広さ:壁掛け扇風機は10〜20㎡、大型扇風機は50〜100㎡以上
- 設置位置:壁掛け扇風機は壁の高い位置(固定)、大型扇風機は床(移動可能)
- 床スペース:壁掛け扇風機は不要、大型扇風機は必要
教室の広さ(60〜70㎡)と熱負荷(30人以上の生徒)を考えれば、大型扇風機のほうが適していることは明らかだ。
床スペースと保管の問題は解決できる
大型扇風機の難点は、床スペースを使うことと、夏が終わったあとの保管場所だ。教室は机と椅子で埋まっているし、学校の倉庫にも限りがある。
だが、いくつかの方法で解決できる。
教室の隅に置く
教室の四隅は、机が置かれていないことが多い。ここに大型扇風機を1台置くだけで、教室全体に気流を送ることができる。対角線上の隅にもう1台置けば、さらに効果的だ。
教卓の横に置く
教卓の横のスペースは、比較的余裕がある。ここに大型扇風機を置き、教室全体に向けて送風する。教師も生徒も、風の恩恵を受けられる。
廊下側から送風する
廊下に大型扇風機を置き、教室に向けて風を送る方法もある。教室内のスペースを一切使わずに、換気と送風を同時に行える。
レンタルを利用する
保管場所の問題は、レンタルサービスで解消できる。夏場の特定期間だけ借りて、シーズンが終われば返却する。購入だけが選択肢ではない。
まとめ
壁掛け扇風機は「床を使わない」というメリットで、多くの教室に採用されてきた。だが、その風量は教室の広さと熱負荷に対して不足している。
- 教室は60〜70㎡、家庭のリビングの3〜4倍の広さ
- 30人以上の生徒がいれば、2,400W以上の熱が発生する
- 壁掛け扇風機の風量は家庭用レベルであり、この熱負荷に対応できない
- 大型扇風機であれば、教室全体の空気を動かすことができる
- 床スペースの問題は、配置の工夫で対応できる
- 夏場だけの利用なら、レンタルサービスという選択肢もある
暑い教室で授業を受ける生徒、授業をする教師。彼らのパフォーマンスは、室内環境に大きく左右される。壁掛け扇風機が回っているから大丈夫——そう思い込んでいるなら、一度立ち止まって考えてみてほしい。
その風は、本当に届いているだろうか。
