涼しい僕たちは扇風機を使う

扇風機が生み出す風とカルチャーを探求しています。

風送屋のMr.ニヒル-大型扇風機の季節が来た

time 2025/06/06

「どうやら始まったようだ。何がって? 大型扇風機の需要がだよ」

 
Mr.ニヒルは、にやりと笑っていった。

その笑みの奥には、誰にも知られていない使命感と、そしてほんの少しの誇りが宿っていた。彼は、街でも評判の風送屋――つまり、大型扇風機の移動設置を専門とする、ちょっと風変わりな職人だった。

今年の夏は異常だった。街全体がまるでフライパンの上に置かれた餅のように、じりじりと焦げついていた。アスファルトは歪み、蝉はやる気をなくして昼から黙りこくっていた。

そんなとき、風送屋Mr.ニヒルの出番がやってきたのだ。

彼の愛機「ゼファー1号」は、まるで飛行機のプロペラのような羽を持ち、音はうるさいが風は優しい。その巨大な風を求めて、広場、商店街、学校、病院まで、ありとあらゆる場所から出動依頼が殺到した。

特に、街のはずれにある「ひだまり保育園」からの依頼は、彼の心に火をつけた。

「子どもたちが、あまりに暑くて泣き止まないんです。どうか…あの風を!」

保育士の若い女性が涙ぐみながら電話越しに言った。

Mr.ニヒルは黙って電話を切り、ゼファー1号の起動ボタンを押した。機体が震え、風の準備が始まる。

保育園に着いたとき、子どもたちはぐったりしていた。小さなうちわで懸命にあおぐ先生たちの姿が、彼の心を動かした。

「さあ、そいつを食らいな……”真夏の救世主”の風をな!」

ゼファー1号が唸り声を上げ、空気を切り裂く音と共に、冷たい風が一気に園庭に広がった。

「わあああああ!」

子どもたちの目が輝き、キャーキャーと走り回る。風が彼らの髪を、シャボン玉を、笑い声を運んでいく。保育士たちも、思わず笑って手を広げた。

Mr.ニヒルは、その様子をしばらく見つめ、帽子を深くかぶり直した。

「また一つ、風の恩返し完了ってとこか」

その日の夜、街の掲示板には子どもたちからの絵が何枚も貼られた。真ん中には、大きな扇風機と、その隣に立つ無口なヒーローの姿。

「風のおじちゃん、ありがとう!」

そう書かれていた。

Mr.ニヒルは、誰も見ていない倉庫の隅で、そっと笑った。

そして、次の依頼先へと、風を背にして歩き出した。

――この街には、まだまだ風が必要だ。

Mr.ニヒルという名前には、皮肉や冷たさの裏にある“あたたかさ”というギャップを込めています。彼が届けたのは、単なる風ではなく、人を笑顔に変える「思いやり」そのものだったのかもしれません。

そして、大型扇風機はただの機械ではなく、想いを運ぶ“翼”のような存在として描いています。

いつか、あなたの街にも、風を届けるMr.ニヒルが現れるかもしれません。
そのときは、帽子の奥のにやりとした笑みを見逃さないでください。

 
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